第4回全国医療AIコンテスト開催報告

全国医療AIコンテストとは、2019年から始まって第4回となった医療AIの講演会とコンペティションが一体となったイベントです。医療AIに興味のある学生・医療関係者・社会人が集まって、AIを応用した医療・介護・ヘルスケアの最先端についての講演会と医療データ解析コンペティションを行いました。

第4回は大阪市立大学(現大阪公立大学)医療×IT研究会が主催させていただきましたので代表して野々宮から開催報告をさせていただきます。

また、本イベントは以下の団体・企業様のご支援のもと開催されており、この場をお借りしてお礼申し上げます。

共催(敬称略):
大阪大学AI & Machine learning Society/AI Medical Society (AIMS)
大阪大学医学部Python会
東京医科歯科大学 医療IT・数学同好会 T/T (ティーパーティー)
一般社団法人臨床医工情報学コンソーシアム関西

協賛(敬称略):
日本ユニシス
特別協力(敬称略):
ナレッジキャピタル

講演

今回は5名の先生方にご講演いただきました。各講演について会員が作成したレポートを掲載します。

「AIで世界の健康を実装する」

大阪市立大学(現大阪公立大学) 健康科学イノベーションセンター スマートライフサイエンスラボ 植田大樹 先生

日本で初めて医療機器承認を獲得した放射線画像AIを開発したことをはじめとして、本学の医療AI研究を先導する先生で、ご自身の体験を踏まえながら、これからの医療AIを担っていく学生達に対してエールをくださいました。先生の学生時代のお話は医学部の低学年の人には親しみの持てるもので、そういった先生が現在、AI研究で活躍されているということは、彼ら彼女らに大きな夢を持たせてくれたことでしょう。医療系学生の活動は全国的に見ても時代と共に幅広く変化しており、我々のように学生のうちから研究に関心を持つ医学生も少なからず存在します。そういった学生にとって、身近に植田先生のような学生の背中を押してくれる先生がいらっしゃることは大変ありがたいことだと思います。

医学科6回生 Y.N.

「インテリジェントな放射線画像システムの構築に向けた取り組み」

国立がん研究センター 研究所 小林和馬 先生

がん診療において放射線画像は重要な役割を果たしています。しかし、その膨大で貴重なデジタルデータは病院に蓄積されていく一方であり、これまで十分には有効活用されてきませんでした。そこで、小林先生は画像診断AIの開発、およびその知見を基に医療AI開発を簡便化する取り組みを始めるに至ったそうです。

画像診断AIといっても、”浅い”画像診断、つまり「どこに何があるか」という簡単な分析だけではなく、”深い”画像診断、つまり医師がその画像を見て診療するのと同じように、鑑別を要する疾患や推奨治療・予後についての情報を与えてくれるAIの開発を最終目標とされています。

その実現化のために、従来では臨床医が逐一アノテーションを行っていたような診療データを元に、診療情報を構造化し、さらにはその過程をAIに学習させることでデータベースの構築を自動化しようとする試みを行われています。

また、データベースの活用のため、類似画像等の検索技術開発もセットで行うことで、その利便性を高めることも重要な課題だと考えておられました。

発表全体を通して、医療AIというカテゴリーにおいて主要な分野である画像診断AI開発の現状について詳細に触れていただき、また生成データへの希望と課題など今後の展望を語って頂いたことは、大変勉強になりました。

そして質疑応答の中であった、データを大規模に収集して1つの確かなモデルを作り出すという挑戦は、現在では法的に厳しいそうですが、医療の発展のために私たちの世代も含めて共に考え、目指すべきだと感じました。

医学科2回生 A.O.

「PubMedBERT: 医学・生命科学分野に特化した大規模言語モデルの活用」

Microsoft Health Researchチーム 臼山直人 先生

医学•生命科学分野におけるAI開発では、学習に用いることのできるデータの不足により、自然言語処理モデルをトレーニングすることが難しいという課題がありました。これは、医学•生命科学分野のデータそのものが少ないというより、むしろ活用できる形で保存されているデータが少ないことが原因だそうです。

そこで近年は、膨大な論文や電子カルテの情報を上手く活用する手法が必要とされています。臼山先生がいらっしゃるMicrosoft Health Researchチームは、膨大な医学•生物学文献を検索できるデータベースである‘PubMed’と文脈理解に長けた自然言語処理技術 である’BERT‘を活用し、医学•生命科学分野に特化した言語モデルであるPubMed BERTを開発しました。これにより、医学•生物学分野の自然言語処理の精度を高めることに成功しました。今後、医療現場では音声認識などさまざまなAI技術が用いられるようになるため、益々このような技術が重要になっているようです。

臼山先生は講演の最後に、医療AI開発はITと医学を使い世界に大きな影響を与えられる仕事であるとおっしゃっており、医師や医学知識を持つ人のキャリアの一つとして提案されていました。技術の持つ可能性に面白さを感じられ、手の届かない世界中の多くの人にインパクトを与えられるということにさらに大きな魅力を感じられる、大変興味深い講演でした。

医学科2回生 N.F.

「臨床現場におけるAIモデルの有用性:予測された患者群は本当に介入対象なのか?」

TXP medical株式会社 後藤匡啓 先生

 「臨床現場で使われるAIを作る」ために意識すべきことを主題とした講演でした。AIモデルを画像に対するものと表形式データに対するものをに分け、講演では後者、例えば、疾患発症予測モデルや死亡率の予測モデルなどのAIモデルがどのように臨床現場で使ってもらえるようにするかに焦点を当てていました。

まず、現在のテーブルデータのAIは臨床現場ではあまり使われていないことをお話し頂きました。例えば、健康診断のデータからある疾患の発症を予測したとしても、その疾患の原因となる因子が何なのかが明確にならなければ介入できません。そのため、臨床現場では使うことができないのです。また、死亡率の予測も同様に、死亡率を予測したところで行う処置に変更はなく、また臨床医であれば肌感覚で死亡率を認識できるため臨床応用には程遠いものとなります。

例示した2つのAIの問題点は、1つ目に臨床現場では使う必要のない機能を提供している点、2つ目は介入策を教えてくれない点です。

1つ目については、臨床現場で使ってもらおうとするのであれば、必要な機能を絞り、ユーザーフレンドリーなAIを作ることが重要だと指摘がありました。2つ目については、介入対象をある治療が効く群と、効かない群にグループ分けすることが必要であるとの指摘がありました。それにより、介入の仕方が明確化され、臨床で使うことのできるAIになるのです。

最後に、上記のようなグループ化をどのように行うかについて、より詳細なAIの作り方の説明がありました。

今回の講演を通じて、臨床現場で使ってもらうために大事なことは何なのか、そのための現在の研究について、あまり知ることができない知識を得ることができ、実りあるものになりました。

医学科2回生 T.K.

「Kaggleから学んだ医療画像データ解析の取り組み方」

京都大学薬学研究科/TURING株式会社/Kaggle Grandmaster 井ノ上雄一 先生

Kaggle Grandmaster である井ノ上様より、近年Kaggle にて開催された医療画像コンペを例に、初心者がどのように医療画像解析に取り組むべきかをお話されました。EDA(探索的データ解析)や評価指標の確認、ベースラインモデルの作成といった、コンペ参加時にまずやるべきことの概略をわかりやすく説明頂きました。

特にベースラインを作成とその改良についてのお話が印象に残っています。一番初めにシンプルなモデルを作成し、モデルを改良していく際は1つずつ変更を加えその度に評価指標の変化を確認していくことが重要であることを強調されていました。モデルを作成する際に色々試したいアイディアがあったとしても、一度に多くの変更を加えると結局どれが一番効果があったのかを判断できなくなってしまいます。また、モデルの改良の際に変えてみると良い比較的単純で重要な項目として、画像サイズ、Augmentation、モデルサイズを挙げていました。モデルの改良は、とにかく多く実験を回して感覚を掴んでいくことが重要だそうです。これら、今後コンペに参加する際に心がけていきます。

最後に、勉強法として、参加したコンペや過去コンペの解法をまとめることをお勧めされており、井 ノ上先生自身がまとめられた記事も非常に参考になります。

 [ リンク : https://qiita.com/inoichan/items/140cf018d31151d2701a ]

専門的な話は極力減らされており、全体を通して初心者に優しい講演でした。
これを機に医療画像コンペに参加するモチベーションを高められた参加者も多いのではないかと思います。

医学科6回生 R.F.

Pythonチュートリアル

プログラミング歴1年の医学科2回生H.K.がチュートリアルを担当しました。多少説明不足な点があったかもしれませんが、ビギナー視点でPythonを始めたばかりの参加者に寄り添ったチュートリアルになっていたのではないでしょうか?

医療データ分析コンペティション

今回は胸部レントゲン画像から肺炎かどうかを診断する画像分類コンペでした。監修は毎度おなじみ大阪大学医学部附属病院の秋山さんです。本コンペの特徴としては、ラベル付き画像に対して多くのラベルなし画像が提供されたという点と2種類のオープンデータセット由来のデータセットだったという点が挙げられます。したがって、半教師あり学習をどのように行っていくか、由来データセットの異なる画像をどう扱っていくかといったことが出題者的な興味でしたが、想定外の解法が色々聞けて非常に面白かったです(詳細はリンク先のスライドを見てください)。また、今回はBaselineのモデルとしてpseudo labelingを用いたものを提供していたので、初心者の方にも単純な教師あり学習に終わらないモデル作成の手法を持ち帰ってもらえたことと思います。

結果

           1位 kambarakunさん

           2位 patriotさん

           3位 tachyon777さん

1位の解法

2位の解法

イベント運営の反省点

学生が運営していることを強調するため、前回は教員が行っていた司会も全て学部生の会員で回すことにしましたが、当日の進行に関しては特に問題なく終了したことと思います。今回は今まで以上にTwitter広報にも力を入れており、Twitter経由の参加者もそれなりに獲得できていました。改善すべき点としては、参加者の属性や興味を事前に収集しなかった点を考えています。参加者の属性分布や興味が事前にわかっていれば講演者の先生と内容の微調整を行えたのでより満足度の高い講演にできたことと反省しております。

最後に

大阪市立大学(現大阪公立大学)医療×IT研究会はまだまだ歴史の浅い団体で、このようなイベントの主催実績もなかったため、至らなかった点もあったことと思いますが、運営メンバーの皆様、AIMS顧問の新岡先生、登壇者の皆様、共催・協賛・特別協力の団体・企業の皆様のおかげで無事イベントを終えることができました。我々に貴重な機会を下さったこと、開催に様々な形で協力してくださったこと本当にありがとうございました。そして、これに続いて他の医療AI関連団体が次の全国医療AIコンテストを主催してくれることを期待しています。